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Q医療・ヘルスケアサービスで問題となる法規制(医師法・診断等)

Q 医療・ヘルスケアサービスで医師法が問題となる場合があると聞きますが、どのような場合なのでしょうか。

A 医療・ヘルスケアサービスを行う場合には、医師法17条が問題となる場合があります。ヘルスケアサービスのつもりでも「診断」に該当してしまう場合があるため注意が必要です。

医療・ヘルスケアサービスの展開にあたっては様々な法律を検討しなければなりませんが、その中でも医師法が問題となる場合があります。

医師法は、医師の資格や業務等を定めている法律であり、医療ととらえていない場合や医師が関わらない場合には関係ない法律だと思われるかもしれませんが、実際には以下の条項がしばしば問題になります。

医師法17条 医師でなければ、医業をなしてはならない。

医師以外は「医業」をしてはいけないということであり、その他にも医療の分野では資格がなければ行えない業務が定められています。看護師であれば「療養上の世話」「診療の補助」、薬剤師であれば「調剤」などです。

1 医師しか行えない「医業」

この医師しか行えない「医業」に該当する要件としては、「業」とすること、「医行為」であることの二つがあります。このうち「業」とは、「反復継続の意思をもって行うこと」であり、ビジネスとして行うのであれば通常「業」とすることに該当するでしょう。なお、営利目的であるかは関係なく、無償であっても「業」とさます。

2 医行為

「医行為」とは、「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」(平成17年7月26日医政発0726005号厚生労働省医政局長通知)、「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」(最判昭和30年5月24日刑集9巻7号1093頁、最判平成9年9月30日刑集51巻8号781号)などとされていますが、この定義をみてみてもはっきりしないと思われるのではないでしょうか。

手術などは医行為の典型例ですが、手術自体は医師が行っても危険があるはずです。医師が行うことによって、一般の方が行うのと比べて危険が大きく減少するものが「医行為」に該当することが多いなどと説明をすることもありますが、なかなか一律に決まるものではありません。そのため、「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」(平成26年3月31日改正平成29年5月30日厚生労働省経済産業省)では、「医師が出す運動又は栄養に関する指導・助言に基づき、民間事業者が運動指導又は栄養指導を行うケース」でも取り上げられ、その他グレーゾーン解消制度においてもしばしば取り上げられることがあります(なお、原則として医行為ではないと考えられるものについては、「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(医政発第0726005号平成17年7月26日)において、体温測定、自動血圧測定器による血圧測定などが例示されています)。

「医行為」の概念が、このように明確になっていないのは、医療の危険性は時代とともに変わってくるので一律に決めるべきでないという理由があるため、この解釈は時代とともに変わることもあるということに注意が必要となります。

3 診断行為

現時点での「医行為」の具体的な例としては、行為自体に侵襲性を含む、処方、注射、放射線照射、手術、採血等が挙げられます。一方、行為そのものには侵襲性がない診断も「医行為」に該当し、この診断が様々な場面で検討することになります。運動指導等であっても診断に該当すると判断される場合があるのです。

上記ガイドラインでも「利用者の身体機能やバイタルデータ等に基づき、個別の疾病であるとの診断を行うことや治療法の決定等を行うことは、医学的判断を要するものとして、医業に該当するため、必ず医師が行わなければならない。」とした上で、「以上を踏まえ、民間事業者は、医師が民間事業者による運動/栄養指導サービスの提供を受けても問題ないと判断した者に対し、自ら診断等の医学的判断を行わず、医師が利用者の身体機能やバイタルデータ等に基づき診断し、発出した運動/栄養に関する指導・助言に従い、医学的判断及び技術が伴わない範囲内で運動/栄養指導サービスを提供(例えば、ストレッチやマシントレーニングの方法を教えることや、ストレッチやトレーニング中に手足を支えること。)することができる。」としています。

診断とは、「一般的に、『診察、検査等により得られた患者の様々な情報を、確立された医学的法則に当てはめ、患者の病状などについて判断する行為』であり、疾患の名称、原因、現在の病状、今後の病状の予測、治療方針等について、主体的に判断を行い、これを伝達する行為は診断とされ、医行為となる。」(「オンライン診療の適切な実施に関する指針 」平成30年3月 (令和元年7月一部改訂) 厚生労働省)とされています。なお、検査結果を単に通知する行為だけでは医行為に該当しないとされています(「診療所開設許可に関する疑義について」昭和23年8月12日医第312号。消費者向け遺伝子検査ビジネスでは「遺伝要因だけでなく、環境要因が疾患の発症に大きく関わる「多因子疾患」のみを対象としており、  統計データと検査結果とを比較しているにすぎない場合」には診断を行っているとはえず、医行為には該当しなないとされています。)

上記ガイドラインの、簡易な検査を行うケースにおいても「個別の検査(測定)結果を用いて、利用者の健康状態を評価する等の医学的判断を行った上で、食事や運動等の生活上の注意、健康増進に資する地域の関連施設やサービスの紹介、利用者からの医薬品に関する照会に応じたOTC医薬品の紹介、健康食品やサプリメントの紹介、より詳しい健診を受けるように勧めることを行う場合。」は違法としおり、医学的判断を行った上での対応が違法となるという説明がされています。

そのため、医学的にデータのとれるウェアラブル端末などを用いたサービスなどは特に注意が必要になります。データに基づいて、個別にアドバイスを行うと医行為に該当する場合が多いと考えられます。上記ガイドラインでは、「民間事業者が、簡易な検査(測定)を受けた利用者か否かに関わらず、利用者等からの照会に応じ、食事や運動等の生活上の注意、健康増進に資する地域の関連施設やサービスの紹介、利用者からの医薬品に関する照会に応じたOTC医薬品の紹介、健康食品やサプリメントの紹介、より詳しい健診を受けるように勧めることを行う場合には、個別の検査(測定)結果を踏まえたものではなく、一般論としての範囲で行うこと。」とも示しており、当該個人への判断を踏まえたものではなく一般論としてという点が重要となります。